日本の労働環境が劣悪な理由と原因について

2017年5月20日の「池上彰のニュースそうだったのか!!」2時間スペシャルでは、私が非常に興味を惹かれるテーマを取り上げていた。

内容を端的に言えば、日本の労働環境についてだ。

日本の会社と欧米の会社を比較して、日本の労働環境の問題点やブラック企業が作られる原因などを池上彰が解説していた。

私はこの番組を見て非常に感心した。

「全国放送にも関わらず、よくぞここまで放送してくれた」と心の中で叫んだほどだ。

この番組を見て、初めて「日本の労働環境の実態」を知った人にとっては、物凄い衝撃を受けたことだろう。

それほどまでに、番組内では日本の労働環境を深く追求していた。

ただ、やはり全国放送ということで、法律や社会システムを否定するような内容については触れられていないところが残念だった。(それでも十分すぎるほどだが)

そこで、今回はこの番組の補足として、私が日本の労働環境が劣悪になっている根本的な原因を話したいと思う。

番組で興味を持った人や、日本の労働環境に疑問を感じている人は、是非一度目を通してもらいたい。

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日本と欧米の就職システムの違い

本題に入る前に、まずは番組内で紹介されていた部分について触れる。

今回、まず初めに焦点が当てられたのが、日本社会と欧米社会の就職システムの違いについてだ。

現在の日本の就職事情といえば、新卒で一括採用するのが基本である。

多くの者は大学卒業と同時に社会人となり、会社に所属するのが一般的だ。

これに対して、欧米では基本的に欠員が出た時のみ社員を補充する。

そのため、欧米では日本のように全ての人が大学卒業と同時に就職するわけではなく、まずは自分ができる職業を探すことを重視する。

よって、入社式もなければも同期も存在しない。

一方の日本では、入社と同時に部署が決定され、何の仕事をするかは全て会社側に委ねられている。

例えば、新聞記者になりたくて新聞社に入社したとしても、経理などに回されれば新聞記者の仕事はできないのである。

欧米ではこのようなことは絶対にありえない。

就業契約の時点で、こと細かに仕事内容が記載されており、それ以外の仕事をすることは絶対にないのだ。

この比較からもわかるとおり、日本と欧米では就職の意味合いが大きく異なっている。

日本での就職は、主に会社に従事するという意味を指している。

番組内でも池田彰は「日本の就職は、就職ではなく就社である」と言っていた。

これは本当に上手い例えだと思った。

表向きは職業選択の自由はあるが、実質的には自分では仕事は選べないのだから。

日本の労働環境を劣悪にしている原因

前項で記したように、日本の就職は欧米と違い、基本的に個人の自由意思は反映されない。

働くことで重視されるは「個人の資質」よりも、企業への「忠誠心」の方が強いからだ。

ただ、そんな日本の「就社」にもメリットは存在する。

それが年功序列終身雇用である。

会社に従事してくれる代わりに、社員には毎年の「賃金アップ」と「定年まで働ける保証」が用意されていたのだ。

一億総中流社会という言葉が示すように、昔の日本ではこのシステムが非常にうまく機能していた。

しかし、【良い大学、良い会社に入ることへの幻想】で話したように、現在の状況は、昔とは全てが違う。

実質的には終身雇用は崩壊し、毎年賃金が上がる会社はほんの一部だ。

にも関わらず、会社>社員という力関係だけは相変わらず昔のままである。

池上彰は、このパワーバランスこそがブラック企業を作る要因だと話した。

私も、この意見には同意である。

欧米のように、会社と社員が対等という関係では、ブラック企業が生まれることはまずありえない。

本来ならば、日本も欧米のように労働組合が積極的に動くべきなのである。

正直にいえば、今の日本の状況下では、会社に従事するメリットはほとんどないのだから。

しかし、日本で働くうえでは、そうできない大きな理由がある……。

これこそが、今回のテーマである「日本の労働環境を劣悪にしている原因」なのだ。

それは正社員の解雇規制である。

前述したように、日本では終身雇用があり、表向きは定年まで勤めることができるようになっている。

これは法律で「正社員を簡単に解雇できない」ことになっているからだ。

一見していいように思えるこの法律だが、実は、これには労働市場を閉塞させる副作用がある。

なぜなら、会社側が正社員の雇用を渋るようになるからだ。

一度雇ってしまうと解雇することができないとうことは、それだけ採用にも慎重になるということ。

ヘタな人を雇ってしまった後でも、簡単には解雇できないのだから当然だろう。

雇用者側としては、いうなれば失敗は許されない状況なのである。

このことが近年、日本の労働市場に派遣社員が多くなっている要因でもある。

知らない人は驚くかもしれないが、正社員を一人雇うよりも派遣社員を一人雇う方が会社の費用は高くなるのだ。

仮に雇った派遣社員の給料が20万だとしたら、会社が実際に払っている金額はその「2倍」もしくは「3倍」だと考えていい。

そのほとんどのお金は派遣会社に流れているので、派遣社員自体には実感はないかもしれないが、会社側としては派遣社員を40万以上で雇っているということになる。

つまり、それだけのコストを掛けても会社は解雇しやすい社員を求めているのだ。

大企業でもどうなるかわからない近年の経済状況では、雇用側にとっては「いつでも人数調整が効く労働者」の方が需要が高いのである。

正社員の解雇規正暖和がもたらす相乗効果

現在の企業は、高いお金を払ってでも解雇しやすい人材を求めている。

なんとも無慈悲に思えるかもしれないが、実は「正社員を解雇しやすい」ことは労働者側にもメリットがあるのだ。

それは、誰でも簡単に正社員になれる可能性が高まるということ。

なぜなら、既存の正社員を簡単に解雇できるようになれば、解雇にしたくてもできない人を解雇し、その分の空きを作ることができるからだ。

そうなれば、自ずと新しい「採用枠」が生まれることになる。

その相乗効果として期待できるのが、今まで新規採用を渋っていた会社が、積極的に採用に取り組むようになること。

それはつまり、雇用の受け入れが広くなることを意味する。

さらに、それに伴って大きく変わるのが、労働者が簡単に会社を辞めることができるようになることだ。

現在の日本の労働環境では、多くの人が会社に不満があっても我慢して働き続けている。

その根本的な理由は、心の中で「一度辞めたら次の職を探すのが難しい」と考えているためである。

しかし、もし次の職が簡単に決まるとわかっていれば、わざわざ我慢してその会社に留まる人はいないだろう。

嫌なことがあればすぐに辞めて次の職場を見つける。

このことが「できる」と「できない」とでは、心のゆとりに大きな差が生じる。

「心のゆとり」を持って働くことは、イメージとしてはアルバイトをしている時と同じ感覚だ。

アルバイトは、なぜ正社員で働く時と違って憂うつになることが少ないのか。

もちろん、それにはアルバイトと正社員の責任の違いが関係しているのは間違いないだろう。

しかし、それ以上に「嫌になったら辞めればいい」という気持ちの余裕を持てるからだ。

反対に、今の日本社会のように「辞めたら次がない」という状況では、労働者は常に気を張り続けなければならない。

これでは心が疲労するのは当然である。

近年、仕事のことでウツになる人が多いのは、この逃げ道がないことが起因している。

もし、私が提示するような社会が実現されれば、仕事に悩む人は今よりずっと減るはずである。

そして、そのことは社会全体にも大きなプラス要素となる。

なぜなら、雇用者側と労働者側のパワーバランスが変化するからだ。

今までは、どんなに理不尽なことをされても会社に逆らうことはできなかった。

しかし、辞めても次があるという状況になれば、皆すぐにその会社から離れていくだろう。

そうなれば、ブラック企業は自然と駆除されていく。

これは、ブラック企業だとわかれば社員はすぐに辞めていくため、企業体質を改善せざるをえないからだ。(そうしなければ社員が集まらないため)

つまり、ブラック企業を撲滅したければ、このように労働市場に流動性を持たせることが一番の方法なのである。

クリーンな労働環境を作るために

以上のことからもわかる通り、正社員の解雇規制緩和には「会社側」にも「労働者側」にも、強いては「社会全体」にもメリットのあることだ。

しかし、実際はまだまだ反対意見が多い。

恐らく、私が話したメリットを知らずに、「正社員でも解雇される」ということだけに焦点を当てて不安を持つ人が多いためだと思われる。

だが、一度考えてみてほしい。

「会社に利益を出せない人間」が解雇されるのは当然の話ではないだろうか。

正社員になれば一生解雇されない。

これは逆にいえば、仕事ができなくても高い給料をもらう人が出てくる、ということだ。

このような不正を放っておけば、やがては社会全体に必ずマイナスの影響を及ぼすことになる。

実際、今の日本では能力と給料が一致していない社員が蔓延している。

そのような人物は、特に「役員」や「上層部」に多い。

年功序列制度の恩恵を受け、能力がないにも関わらず、年齢と共に役職だけが上がっていった結果だ。

結局のところ、正社員の解雇規制で一番得をしているのはこの層なのである。

私は、日本の経済が低迷している理由は、このことが大きく影響していると考えている。

能力の高い者には高い給料を払い、そうでない者にはそれに見合った給料を支払う。

これこそが「資本主義」において、会社の正常な在り方のはずだ。

実際、欧米ではこのやり方で生産性を上げているのだから。

そういう意味では、日本は本物の資本主義国とはいえないだろう。

たしかに景気の良かった頃は、全ての人に恩恵があっただけに、解雇規制は良い法律だったのかもしれない。

しかし、時代は変わり、グローバル化が求めらている現在では、明らかに日本の労働環境は理に適っていない。

私は、今の日本社会を改革するためには、この「正社員の解雇規制緩和」こそが重要な鍵だと思っている。

一日も早く、欧米のようなクリーンな労働環境が実現されることを心から願っている。

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