この記事を書いている現在(2018年6月30日)、世間はワールドカップの話題で持ちきりだ。
我が国日本も決勝トーナメント進出を果たし、ますます観衆の熱が増している。
私自身も今回の日本の躍進はとても嬉しく思っている。
しかし、そんな中、その熱が一気に下がるニュースを見てしまった。
2018年6月29日、働き方改革関連法案が成立したというのだ。
少し前に裁量労働制の議論で世間を騒がせた法案だが、それ以降はあまりニュースでも見かけず、私自身もワールドカップに注目していてすっかり頭から消えていた。
そんな中、まさかのタイミングで法案が成立していたのだ。
これには本当に驚いた……。
恐らく、この事実を知らない人も多いのではないだろうか。
私はこの働き方改革関連法案に恐怖を感じている……。
今回は、多くの人にこの法案を知ってもらいたく、私が思う働き方改革関連法案の危険性について説きたい。
高度プロフェッショナル制度に潜む危険性
働き方改革関連法案とは、一言でいえば「多くの国民が活躍できる社会を実現するための改革」である。
少子高齢化が進む中でも、現在の人口1億人を維持し、皆が活躍できる社会を目指すというものだ。
しかし、高貴な目標とは裏腹に、実際の中身は現在の労働者達を脅かしかねない制度ばかりだ。
中でも、特に問題視されているのが「高度プロフェッショナル制度」である。(以下「高プロ」と呼ぶ)
この制度は、高収入かつ高度な専門職に就いている人を対象に、時間ではなく成果で評価される働き方を促進させるというものだ。
最大の特徴は、高プロを導入すると、対象者は労働基準法の保護からはずれるということ。
これにより高プロ対象者は原則として時間に縛られないことになる。
つまり、労働基準法の1日8時間、週40時間までしか労働者を働かせてはならないという規制がなくなるのだ。
政府側はこれに関して「高収入で高度な専門職ともなれば、自分の判断で自由に働けるはず」との見解を述べている。
たしかに政府の言う通り、時間に縛られずに自由に働けるならば、科学者や研究員などの職種には役立つかもしれない。
だが、果たしてそううまくいくだろうか。
いや、私はそのメリットよりも、労働者にとってはデメリットの方が強く反映されるのではないかと懸念している。
具体的に言えば、高プロ導入後はブラック企業が蔓延するという恐れだ。
前述したように、この高度プロフェッショナル制度には労働基準法が適用されない。
よって、経営者は残業代を支払う義務がなくなるのだ。
つまり、悪い経営者ならば、いくらでもこの制度を悪用できるのである。
どんなに働かせても残業代を出さずに済むのだから、人件費を削減したい経営者にとってはこれほどありがたいものはない。
逆に言えば、労働者は無料で長時間労働を強いられる危険性があるということだ。
まさにサービス残業のオンパレードである。
だが、危惧しなければならない点はこれだけではない。
本当に恐ろしいのは、たとえ過労で倒れたとしても、労働者は会社側を訴えることができなくなることである。
再度言うが、高プロには労働基準法が適用されないため、訴えたとしても会社側を罰することができないのだ。
「高度プロフェッショナル制度で契約を結んだのだから、あなたの自己責任です」
弁護士に相談してもこう返されるのである。
今までは、労働者にとって悪い会社は「ブラック企業」として咎めることができた。
だが、今後は過労で倒れたとしても、労働者が自己責任として逆に咎められる羽目になるかもしれないのだ。
これは考えただけでも恐ろしいことである……。
もしかしたら、近い将来「ブラック企業」という言葉がこの世から消えるかもしれない……。
今まで違法だったことが合法になるのだから……。
同一労働同一賃金は非正規の救いにはならない
働き方改革関連法案でもう一つ私が危惧しているのが「同一労働同一賃金制度」である。
これは名前の通り、「労働者は正規・非正規にかかわらず、同じ給料(待遇)であるべき」という考えに基づいて作られた制度だ。
すでに海外では当然のように浸透している制度で、この制度自体は決して悪いものではない。
だが、こと日本においては、この同一労働同一賃金は別の意味をもたらす危険性がある。
多くの人は、この制度により非正規の待遇が良くなると思っているだろう。
しかし、同一賃金にする方法は、なにも非正規の給料を上げることだけではない。
正社員の給料を下げることでも同一賃金は成立するのだ。
「何をバカなことを言ってるんだ」と思われるかもしれないが、これはすでに日本で行われていることなのである。
知っている人も多いと思うが、『日本郵政』が2018年10月から正社員の待遇(住居手当等)を下げることで、非正規社員との待遇格差を是正する方針を打ち出した。
誰もが知る大企業がこの方針を取ったことは、今後の日本社会に大きな意味合いを持つことになる。
なぜなら、同一労働同一賃金を施行した企業の代表例として挙げられることになるからだ。
その影響により、今後は正社員の給料を下げることで非正規との格差を是正しようとする会社が続出する可能性が高い。
「あの日本郵政も行ったのだから中小企業であるウチがやるのは仕方ないことだ」
社長からこう言われれば、社員は何も言い返せないだろう……。
そうなれば、現在正社員として働く人には何もメリットがないことになる。
ただし、非正規にしてみれば、ある意味では正社員と平等になることは間違いないのだから、モチベーションアップに繋がるのではないか、と思う人もいるだろう。
いや、残念ながらそれもないだろう……。
なぜなら、この同一労働同一賃金は非正規の負担をさらに増やす危険性が含まれているからだ。
正社員との給料の差をなくすということは、非正規社員も正社員と同じ仕事をしなけらばならなくなるということ。
それはつまり、責任の重さも同じになるということだ。
非正規の最大のメリットといえば、やはり責任が軽いことだろう。
ほとんどの会社では、基本的に責任が軽い仕事は非正規に割り振り、責任が重い仕事は正社員が行っている。
しかし、同一労働同一賃金となれば、今後は非正規社員にも正社員並みの責任を負わされることになるかもしれないのだ。
当然、それでも給料や待遇は今まで通り変わらないだろう。
つまり、非正規社員の数少ないメリットが消え、ただ負担が増えるだけの結果になりかねないのである。
もし、私の推測通りになれば、世の中の社会不適合者はますます働くことが困難になってしまう……。
本来は非正規の待遇を改善するための制度だが、実際は正社員の給料を下げ、ただ非正規の負担を増やす事態になりかねない。
これが現状で考えられる日本での同一労働同一賃金の危険性だ。
まさに正規・非正規の両者にとって何も良いことがない制度である……。
政治に関心を持つことの大切さ
ここまで話してきたように、働き方改革関連法案は多くの労働者の生活を脅かす危険性を秘めている。
にも関わらず、こうもあっさりと法案が成立してしまうことに私は驚きを隠せない。
なぜ日本の政治家達は、こうも労働者視点で物事を考えずに経営者側を優先するのだろうか……。
結局のところ、その原因はもとをただせば政治に関心を持たない国民が多いからだろう……。
日本人の多くは、政治を「自分には関係ないこと」だと思っている。
政府の言うことをそのまま受け取っていたり、良い側面ばかりを信じるなど、自分の生活との結びつきを意識していないのだ。
しかし、その思考は間違っている。
政治は決して他人事ではないのだ。
例えば、今回話した高度プロフェッショナル制度にしても、当初、政府は対象者を「年収1075万円以上」と言っていた。
だが、実際はこの法案のどこにも年収1075万円以上などとは書かれていないのだ。
これの意味するところは、今後は対象者を拡大する可能性があるということだ。
一説によれば、その対象者はいずれ年収400万円まで下がると言われている。
差額が大きくて現実的ではないと思うかもしれないが、今では一般化している派遣法も、施行された当時は通訳やソフトウェア開発など専門的な13業種だけが対象だった。
しかし、現在ではあらゆる業種に適用されている。
このことからもわかるように、高度プロフェッショナル制度の対象者も近いうちに拡大される可能性は大いにありえるのだ。
それなのに、この法案について関心を抱く人があまりにも少ないことに、私は心底落胆している……。
特に、日本の学生の多くは国内の政治には全くと言っていいほど関心を示さない。
政治といえば「外交」ばかりに目を向けがちだ。
もちろん外交問題も大切だが、本来学生は国内の問題にこそもっと関心を寄せるべきなのだ。
社会人になれば、否が応でも税金などで政治が自分の生活に直結していることを実感せざるを得ないのだから……。
どうか、政治を他人事だと思わずに、もっと関心を持って欲しい。
多くの国民が政治に関心を抱くようになれば、必ず国は良い方向に進むから。
そのことを忘れずに、今後もニュースや新聞等で政治の情報を収集するように心掛けてもらいたい。
願わくは、今回私が話してきた働き方改革関連法案の危険性が杞憂になることを祈っている。