あなたはお金を人に貸したことがあるだろうか。
程度は違えど、誰しも一度くらいは経験したことがあるはずだ。
その結果、一度も人間関係を壊したことがない、というのなら運がいい。
何故なら、お金の貸し借りとは、高確率で人間関係のトラブルを招く原因となるからだ。
漫画『カイジ』にこんな言葉ある。
金は命より重い。
私は当時、このセリフを聞いても、金が命より重いわけないだろ、と軽んじていた。
今でもその考えは変わらないし、この言葉を全肯定するつもりもない。
だが、ここ数年、身近でお金の貸し借りによる「人間関係の破壊」を何度も見てきて、少し考えがかわった。
金は命よりは重くはないが、少なくとも金は重いということには変わらないと。
家族の仲まで壊すお金の魔力
お金の魔力は凄まじい。
お金があれば気持ちが安心するし、なければ怖くなってしまう。
媒体だけ見れば、単なる紙きれにも関わらず、人の気持ちを一瞬に動かしてしまう。
この感覚こそが、まさに人間関係を破壊する引き金となる。
あなたは、お金の貸し借りにどれほどの覚悟を持っているだろうか。
もし、何の覚悟もなしに、お金の貸し借りをしてるのなら注意してもらいたい。
それは、お金の貸し借りで最もトラブルになりやすい人種だからだ。
一つの例を挙げよう。
私の祖母の話だ。
祖母は戦後時代、六人兄妹の長女として生まれた。
その時代では、ほとんどの家庭が裕福ではなかったが、祖母の実家も例外ではなかった。
そのため、家の手伝いや、まだ幼かった弟や妹の面倒も見なければならならず、大変苦労したようだ。
客観的に見ても、祖母は兄妹の中では一番働き者で、しっかりとした人間だと思う。
そんな祖母を、弟や妹達は尊敬の眼差しで見つめ、大変感謝していた。
姉を慕う兄妹達、一見すれば、理想の兄妹関係のように見える。
実際そうだったのだろう……あの時までは……。
事の発端は弟(A男)の借金が発覚したことだ。
なんと、その金額は300万。
A男は元々兄妹の中でも一番素行が悪く、幼き頃から色々と問題を起こしていたらしい。
いくら兄妹とはいえ、普通ならば、この時点で見限られてもおかしくはない。
だが、問題なのは、A男は実家暮らしだったということ。
長男という名目もあって、A男は家の跡取りとして、実家で曾祖母と暮らしていた。
そのため、借金の300万は家を売ったお金で返済しようと試みた。
これを聞いた兄妹達は、当然、猛反発。
だが、誰一人としてお金を貸そうとはしなかった。
そんな中、祖母は300万を全額出すと言ったのだ。
「自分が長女だから家を守らなければならない」
母に当時のことを聞くと、そんな事を言っていたらしい。
祖母の兄妹達も、既に自分の家庭を持っていたため、お金を貸す余裕がなかったのもしれない。
だが、それでも自分の生まれ育った家なのだから、多少は援助しても良いのではないか。
断っておくが、祖母は決して裕福ではない。
むしろ、兄妹の中では一番お金がないと言ってもいいだろう。
結局、300万は祖母が全額肩代わりして、なんとか祖母の実家は売らずに済んだ。
これで一件落着……とはいかず……。
数年の月日が経ち、現在はどうなったか。
なんと、祖母が兄妹達から怨まれる結果になっているのだ。
300万は必ず返済すると約束したA男だが、未だに返済金額は0円。
それだけではなく、返済を求める祖母のことを、がめつい女として扱っている。
さらに他の兄妹達も、帰郷する度に返済を求める祖母のことを、冷ややかな目で見るようになってしまった。
かつては兄妹から慕われた祖母だったが、お金を貸したことで、逆に嫌われる結果になってしまった……。
本当にお金とは、家族関係までも壊す恐ろしい魔力を持っている……。
借りたお金は自分の物
では何故、このような事態が起こったのだろうか。
その一つは、借りたお金は自分の物だという認識になるからだ。
借りた当初こそ感謝の念が沸くものの、日が経つにつれ、そのお金は自分の資産のように感じてくる。
そのため、借りたお金を返すという行為は、自分が損をする気持ちになるのだ。
本当ならば、元も自分のお金ではないのだから、借りる前の状態に戻るだけなのだが……。
この気持ちは本当に不思議だ。
さらに厄介なのは、この感覚は、借りた相手が親しい人間ほど感じやすい。
相手がお金の返済を求めてくれば、怒りすら沸いてくる。
恐らく、親しいからこそ、これくらいのことなら許してくれるはずだ、という心の隙があるのだろう。
それが次第にエスカーレトして、自分のお金を奪おうとする「敵」に思えてくるのかもしれない。
では、逆に貸した相手の心理はどうだろうか。
こちらも貸した当初は「困っている相手を助けるため」という慈悲の精神で心が満たされるのだが、やはり日が経つにつれ、損した気分になってくる。
実際に返済がなければ損しているわけなのだが、借りる側との大きな違いは、お金を損したことよりも、自分の好意を無下に扱われたという精神的ダメージが大きいことだ。
これは祖母のように責任感や慈悲深い人には、尚更ショックだろう。
相手に返済をせがむ度に嫌な顔をされ、何故かこちらが悪いことをしている気分になってくる。
結局、お金の貸し借りは、両者ともに何一つ良いことを生み出さない。
お金の貸し借りは覚悟が必要
前述した祖母の例のように、お金の貸し借りは本当に人間関係を壊す要因になりえる。
だが、どうしてもお金を貸さなければならない状況もあるだろう。
そういう時には、以下の覚悟を持って欲しい。
①お金はあげるつもりで貸す
このことは、聞いたことがある人も多いのではないだろうか。
お金を貸す時はあげるつもりで貸せ。
祖母が不幸中の幸いだったのは、祖父がこの考えの持ち主だったことだ。
祖母がお金を貸すことを決めた時に、祖父からこの言葉を言われたそうだ。
逆に言えば、お金をあげても良いと思えないのならば、絶対に貸すべきではないだろう。
②返済を求める時は鬼になる覚悟
貸したお金を返済してもらうには、自分が鬼になる覚悟が必要だ。
返済を求めれば必ず相手は、もう少し待って欲しい」「今はお金がない」と言ってくる。
だが、それでも心を鬼にして、返済を求めなければならない。
返済期限を過ぎてもお金を返さない時点で、その相手はハナから返済する気はないのだ。
仮にあったとしても、明らかにあなたのことを軽んじている。
だからこそ、例えどんなに嫌な顔をされても、返済を求め続けなければならない。
でなければ、永遠に貸したお金は返ってこないだろう。
その結果、その相手との関係は壊れるかもしれない……。
残念ながら、相手に返済を求めるということは、それほどまでに過酷なことなのだ。
以上のように、お金の貸し借りには相当な覚悟が必要だ。
この覚悟を持てないのならば、絶対にお金の貸し借りはしてはいけない。
私の考えでは、お金の貸し借りは、親しい間柄こそしない方が良いと思う。
関係が壊れても良いと思う相手ならば、まだマシかもしれないが、生涯付き合っていきたいと思う相手ならば、やめておくべきだ。
仮に、どうしてもあなたが借りなければならない時は、借りたお金を返さなければ、相手とは会う資格がない。
その覚悟を持って欲しい。
どうかお金の貸し借りで、大事な友人や家族をなくなさいように、くれぐれも気をつけてほしい。