最近のお笑い番組を見ていると、昔に比べてつまらない芸人が増えたと感じるようになった。
断っておくが、私は関西出身でもないし、特別にお笑いが好きというわけでもない。
だが、そんな人間から見ても、明らかにお笑いの質が下がっているように感じるのだ。
その最も大きな原因は「昔は面白かった芸人がつまらなくなった」からだと思っている。
言い換えれば、「売れている芸人しかテレビに出ていない」とも言えるだろう。
私は、芸人は売れる前の時期が一番面白いパフォーマンスを引き出せると思っている。
売れてしまうと、芸人としての「質」が一気に下がる気がするのだ。
それは一体なぜなのか。
今回は、その理由について、私の自論を述べたい。
私が尊敬していた芸人
昔に比べて明らかに変わった感じる芸人といえば、『松本人志』だろう。
恐らく、これはほとんどの人がそう感じているはずだ。
かつては「お笑いの神」とまで言われていた松本人志だが、最近はネットでも失望の声が多く聞こえる。
私は世代的にダウンタウンの全盛期をリアルタイムで見ているわけではないので、デビュー当時から応援している人と比べれば、精神的ダメージは少ない方だろう。
だが、松本人志が書いた著書『遺書』を読んだことがあるため、その気持ちはある程度共感できる。
あの本を読んだ時、私は大変感動した。
芸人としてではなく、一人の信念ある男として、心から尊敬したのだ。
だが、今の松本人志は、この本に書かれている人物とはまるで別人のように柔らかくなってしまった。
本の中の松本人志は、今よりも尖っていて、お笑いに命をかけるプロフェッショナルだった。
「芸人はタレントじゃない」「芸人はドラマに出るな」など、松本人志が描く本物の芸人像が書かれていた。
この本を読めば、いかに昔の松本人志がカリスマ性のある芸人だったのかがわかる。
しかし、今の松本人志からは、あの頃のような信念がまるで感じられない……。
最近では、お笑いのことよりも筋トレに情熱を注いでいる印象すらある……。
きっと昔の松本人志なら「芸人が筋トレしてどうすんねん!」と一喝することだろう。
それだけに、この変貌ぶりは本当に残念で仕方がない。
ただ松本人志に関しては、私はリアルタイムで「それ」を感じていない分、まだマシだ。
実は、私は他にもリアルタイムで見ていて「つまらなくなった」と感じる芸人がいる。
それは『タカアンドトシ』だ。
「欧米か!」のネタでブレイクし、パンチの効いたコントをしていた彼等だが、最近はすっかり平凡化してしまった印象だ。
特に、タカに限っては、17キロものダイエットをして世間を賑わせている。
おいおい……芸人がお笑い要素をなくしてどうすんだよ……。
思わずそう嘆いてしまった。
もちろん、ダイエットは健康のためにはいいことである。
実際、近年のタカは少し太り過ぎな気もしていた。
しかし、純粋にお笑い芸人として見た時には、自ら「いじられる要素」を消すことは、芸人としての質が落ちたと感じざるを得ない。
芸人がつまらなくなる理由
彼等のように、かつては面白いと感じた芸人がつまらなくなってしまう理由は何なのか。
私は、その大きな理由を「安定期」に入ったこと、だと考えている。
売れてしまえば、周りからの見る目が変わる。
俗に言うチヤホヤされる状態だ。
売れる前は誰にも見向きされなかった芸人でも、売れてしまえば外を出歩くだけで黄色い声援が飛ぶようになる。
そういった環境におかれれば、否応にも毒が抜かれてしまうのだろう。
簡単に言えば「腑抜けてしまった」ということだ。
「昔は尖っていた芸人も、今ではすっかり丸くなった」という現象も、こういったことが影響しているのだと思われる。
ただ、そういった点では、前述した二人はそうではなかった。
売れてからも面白さは長い間維持できていたし、別段天狗になっている様子もない。
特に松本人志に関していえば、『遺書』を書いていた時期は30歳頃であり、売れに売れている絶頂期である。
にも関わらず、あのような信念を保ち続けられたのだ。
このことからもわかるように、安定期とは、単純に「売れること」だけを指しているわけではないのである。
思えば、彼等が「つまらなくなった」と感じるようになった時期には、ある共通の出来事があった。
それは結婚である。
「結婚して何のメリットがあるの?」と本で語っていた松本人志だが、今ではすっかり娘を溺愛する良きパパだ。
タカにしても、痩せた理由は「子供が成人するのを見届けたいから」と言っていた。
やはり、守るべき者ができると、人の信念は変わってしまうのだろう。
自分の信念よりも家族を優先する。
きっと世間から見れば、盛大に賛美されることなのだろう。
だが、あの頃の彼等に惹かれた者にとっては、やはり少々残念な気持ちになってしまう……。
彼等の実態からもわかるように、精神的な安定もまた、芸人をつまらなくさせる原因なのである。
人の価値観は変わってしまう
昔に比べてつまらなくなった、と感じるのは、なにも芸人に限った話ではない。
芸人は「お笑い」をウリにしているため、そのことが顕著に表れるが、このことはあらゆるジャンルに共通する。
例えば、アイドルでいえば、レコード大賞を取った『乃木坂46』よりも、地下アイドルの方がファンとの距離感が近いだろうし、サッカーでいえば、日本代表に常連化している選手よりも、選ばれるか選ばれないかの瀬戸際の選手の方が必死さがある。
世界中で愛されている漫画「ドラゴンボール」を手掛けた『鳥山明』でさえも、今では全く漫画への情熱が感じられない。
これらも、安定期に入ったがゆえの影響である。
ただ、一つ誤解しないでもらいたいのは、このことは一概に悪いとは言い切れないことだ。
さんざんここまで否定するようなことを言ってきたが、本人にとっては安定期に入ることは良いことなのである。
逆にいえば、安定期に入ることが成功の証とも言えるだろう。
かくいう私自身も、この先、もしかしたら安定期に入ることがあるかもしれない。
きっとそうなったら、今のように「人生に苦悩する人達」に向けた記事が書けなくなってしまうだろう。
【本を読んだ方がいい理由】でも話したように、人の価値観は時と共にも変わってしまう……。
それは良い意味でも悪い意味でも……。
残念ながら、これは避けては通れないことだ。
私がブログを書いているのも、それが理由の一つである。
私が今まで感じてきた苦悩や教訓、その想いが完全に消える前に、このブログに書き残しておきたいと思ったからだ。
もし今後、私が安定期に入って思想が変わったとしても、書き残しておけば、ブログの中の私はいつまでも変わらないままでいられる。
「今しか感じられない想い」を残すことは、とても尊いことだ。
松本人志の本を読み、私はそのことを強く感じるようになった。