私には学生時代の思い出がない。
振り返れば辛い出来事しか思い浮かばなく、世間でイメージされる「青春時代」とは似ても似つかない時期だった。
そのため、ずっと学生時代を謳歌している人間が羨ましかった。
一般的には、人生において一番楽しいと言われている学生時代。
その時期を絶望で過ごしてきた私の心には、未だに癒えない傷が残っている。
ただ、ある日、ふと疑問に思ったのだ。
過去の楽しかった思い出は、その後の人生の心の糧になるのか、と。
たとえ今の現状が辛くても、過去に楽しい思い出があれば、思い出を糧にして人は頑張れるのだろうか。
今回は、そんな私の疑問を検証していきたい。
思い出を心の糧にできる人とできない人の違い
学生時代を謳歌していれば、過去の楽しかった思い出を糧にして辛いことでも頑張れる。
私はずっとそう考えてきた。
だが、前述したように、私の学生時代はロクな思い出がないため、そのことを検証することはできない。
そこで私は、この疑問を解消するために、実際に学生時代を謳歌していた知り合いにこの質問を聞いて回ることにした。
きっと、みんな楽しかった学生時代の思い出を糧にして社会人生活を送っているに違いない!
私はそう確信していた。
しかし、結果は私の予想とは裏腹に、8割の人が「思い出は心の糧にならない」と答えたのだ。
この結果に、私は唖然とした。
てっきり過去に楽しい思い出があれば、それを糧にして日々のモチベーションを上げられると思っていたからだ。
納得のいかない私は、彼等に理由を尋ねてみた。
すると、彼等は常々こう口にした。
「過去の楽しかった頃を思い出すと辛くなる……」
楽しかったはずの思い出が、心の糧になるどころか、逆に彼等を苦しめていたのだ。
これは一体なぜなのだろうか……。
その答えは、残り2割の「思い出は心の糧になる」と答えた人達が握っていた。
両者を比較すると、ある違いが判明したのだ。
それは「思い出は糧にならない」と答えた人達は今の現状に不満を持ち、「思い出は糧になる」と答えた人達は現状がとても幸せそうだということ。
前者は現状に不満を持っているがゆえに、今の自分の現状と楽しかった頃の自分を比較して悲観的な気持ちになり、逆に後者は今の現状に満足しているからこそ、過去の楽しかった思い出も躊躇なく懐かしむことができる。
つまり、思い出が心の糧になるかどうかは、本人の現状に左右されるということだ。
どんなに過去が楽しくても、今の現状が辛ければ過去の楽しかった思い出も毒になってしまう。
思い出は、いわば諸刃の剣のようなもの。
ただ楽しい思い出があるだけでは、決して心の糧にはならないのである。
楽しかった頃の思い出を糧にするためには、「あの頃は楽しかった」ではなく「あの頃も楽しかった」にしなければならないのだ。
どうやら、過去の楽しい思い出があればその思い出を糧にして頑張れるというのは、私の思い過ごしらしい。
思い出が心の糧になるもう一つの要因
ここまで話してきたように、思い出を心の糧にできるかどうかは本人の現状が大きく関わっている。
しかし、実はもう一つ、思い出を糧にできる要因が存在する。
それは決して楽しかった思い出ではない。
むしろ、その逆である。
それは、「辛いことを乗り越えてきた」という実感だ。
これこそが人生において最も心の糧となる要因である。
本人にとっては「二度とあの頃に戻りたくない」と思うだろうが、その経験があるからこそ現状を「あの頃に比べたらマシ」と認識できるようになる。
これは、その人の人生においては大きな強みだ。
世間には「若いうちの苦労は買ってでもしろ」という言葉があるが、これにはこういった側面があるからだろう。
苦労している時は辛くても、後々の人生にはそれが大きく実りをもたらす、ということである。
ただし、一つ注意してもらいたいのは、これはアクマで「乗り越えた」という前提条件があるからだ。
単に辛い出来事を味わっただけでは決して心の糧にはならない。
よって、「心の糧を作りたいから」という安易な考えで、率先して辛い出来事(苦労)を味わう、などという真似は絶対にしてはならないことだ。
それは人によっては大きなトラウマを植え付けるだけで終わり、再起すらできなくなってしまう可能性があるのだから。
このパターンで心の糧になるのは、アクマで結果的にそうなっただけの副産物である。
そのことだけはくれぐれも肝に銘じてもらいたい。
思い出を心の糧にできるかどうかは自分次第
どんなに過去に楽しい思い出があったとしても、現状に満足していなければ本当の意味で過去を「懐かしむ」ことはできない。
思い出を糧にしたいと願うなら、今の現状を幸せにするしかないのである。
今回を機に、私はそのことを知った。
当初の私の予想とは大きく異なっているが、逆に言えば、これは過去に楽しい思い出がない人でも悲観する必要はない、ということを意味する。
先ほども話した通り、心の糧になる思い出は楽しい思い出だけでなく、乗り越えたことも心の糧になるのだ。
よって、過去に楽しい思い出がない人でも、現状を幸せにすれば、それが乗り越えた糧(思い出)になるのである。
つまり、大事なことは過去を振り返るのではなく、未来を見据える、ということ。
過去に後悔や苦悩を抱えている人でも、幸せになりさえすれば、これまでの人生を全て肯定することができる。
そこまでの道のりには何度も過去の後悔がよぎるかもしれない。
時には、過去を思い出しては「あの時こうしていれば良かった……」と自分を否定したくなるだろう。
しかし、その思いは永遠に自分につきまとうものではなく、解放できるものだということを忘れないで欲しい。
たとえ過去に楽しい思い出がなかったとしても、人生は変えられる。
過去を悲観してる人や後悔している人は、そのことを心に留めて、これまでの人生を「心の糧」にできるように、幸せな未来を目指して前向きに歩いて欲しいと願う。