大手携帯会社のクーポンサービスが白熱している。
中でも、特に話題を呼んでいるのがソフトバンクの『スーパーフライデー』だ。
これは毎週金曜日に配布されるクーポンを見せることで、アイス、ドーナツ、フライドチキン、牛丼などが無料でもらえるサービスのことである。
実質的には月々の携帯代を払っているので、完全に無料というわけではないが、それでもやはり顧客側としてはお得感を感じてしまう。
2017年7月からは、auも『三太郎の日』と称して同じようなサービスを始めたことから、今後もキャリア間での激しいクーポン競争が予想される。
さて、顧客にとっては良いこと尽くめのこのサービスだが、ネットを見ると、否定的な意見を唱える者もいる。
彼等の意見を見ると、「まるで乞食みたいだ」「時間の無駄だろ」など、主に行列を作る若者達への非難の声が多かった。
中には「日本の将来が心配だ」と、国の未来を懸念している者までいる。
私は、これらの意見を見て、世間の「若者の貧困の現状」の理解度の低さを痛感した。
そこで、今回は近年問題になっている若者の貧困についての自論を語りたい。
若者にとっての無料クーポンの価値
冒頭で語った携帯のクーポンサービスは私も利用させてもらっている。
私のような低所得者にとっては、非常に嬉しいサービスだ。
ただ、それと同時に、批判的な声を上げている者達の意見が全くわからないわけでもない。
先日の金曜日も『サーティーワン』には、長蛇の列ができていた。
彼等の言うように、アイス一つ食べるのに1時間近く並ぶのは、冷静に考えれば割に合わないのかもしれない。
しかし、ここで一つ、彼等は重要なことを見落としている。
それは、多くの若者は無料でなければサーティーワンのアイスを食べようとは思わない、ということだ。
誤解されないように補足しておくが、決してサーティーワンのアイスが買うに値しないというわけではない。
問題なのは、その「料金」を払ってまで食べようとは思わない、ということだ。
当然だが、サーティーワンのアイスはコンビニのアイスよりも値段が高い。
もちろん、その分味も比例して美味しいわけだが、低所得者にとってはなかなか手が出し辛い金額である。
私自身も、アイスを買って食べるならコンビニの100円アイスで十分だと思ってしまう。
つまり、今の若者はサーティワンのアイスを食べられる機会はこのようなクーポンがなければないのである。
よって、彼等にとってみれば、サーティーワンのアイスは1時間並んでも食べる価値は十分にある、というわけだ。
「たかがアイスくらいの金額でみみっちい」と思う人もいるかもしれない。
しかし、それはやはりお金を持っている立場だからこそ言えるのだ。
本当の低所得者とは、その日の食費を稼ぐことすらままならない。
そんな若者達を、私は日雇いバイトで何人も見てきた。
今の若者達は比喩ではなく、それほどまでにお金に困っているのである。
若者の貧困化にある背景
若者の貧困の現状を聞いても、世間は恐らくこう言うだろう。
「ちゃんとしたところで働けばいい」
この意見の裏側には、「アルバイトなどせずに、正社員で働けばお金に困らないだろ」という意味が込められているのだろう。
たしかに正社員で働けば、今よりお金に困ることは少なくなるはずだ。
しかし、その意見は残念ながら「今の世の中を知らなすぎる」と言わざるを得ない。
ハローワークに行ったことがある人ならわかると思うが、今は正社員だとしても月収20万もない求人がゴロゴロと転がっている。
むしろ、20万という給料は「高望み」とすら思えてしまうほど10万代の求人が多い。
当然ながら、それには「退職金」や「福利厚生」も含まれていないし、「ボーナス」すらないことも決して珍しくない。
さらに厄介なことに、このような求人の仕事は、得てしてキツイことが多い。
賃金が安い、待遇も悪い、その割に労働もキツイ、いわゆる「ブラック企業」というケースが非常に多いのだ。
今の若者はそのことを肌で感じている。
そのため、正社員にならずに、あえてアルバイトを選択している者も数多くいる。
同じ賃金が安いのなら、少しでも労働環境の良い仕事に就きたい、と思うのは至極当然のことだろう。
アルバイトなら決められたことをすれば良いだけなので、少なくともブラック企業の正社員よりは理不尽さが少ないのだ。
では、世間が言う「まとも」な求人はないのだろうか。
もちろん、あるにはある。
しかし、それも世間が思っているような「形」としては求人が出されていない。
その理由は、その仕事が「正社員」ではなく「派遣」に切り替わっているからだ。
現在は昔と違い、企業側は少しでもコストを下げるため、なかなか正社員を雇おうとしない。
それには【日本の労働環境が劣悪な理由と原因について】で話したように、正社員を雇うことへのリスクが影響している。
結局、本当に「まとも」な求人というのは極一部しかないのだ。
しかし、当然そのような席には定数があり、全ての者が就けるわけではない。
どう見積もっても、溢れる者達は出てきてしまう。
ましてや社会経験の少ない若者が、そのような職に就ける確率は極めて低いだろう。
今とは違い、大多数の者が「まとも」な会社で働けていた時代には、前述した低所得の若者を「自己責任」という形で蓋をすることができた。
しかし、時代は進み、今では「まとも」な会社で働く若者の方が少なくなり、若者が低所得であることが普遍化してしまっている。
もはや、「臭い物に蓋をする」では隠し切れなくなってしまった。
それほどまでに、若者の低所得化が蔓延化しているのである。
今回の無料クーポン行列現象は、それが表面化した一例に過ぎない。
だが悲しいことに、そのことを理解している人は少ない……。
世間に今の若者の現状は一向に伝わらないままだ……。
今後、若者達はどうすれば良いのか……。
残念ながら、その答えはわからない。
ただ一つ言えるのは、若者達は親や先代の言う事を聞いても報われることはない、ということである。
それは【良い大学、良い会社に入ることへの幻想】でも話したように、親の時代とは全てが異なっているからだ。
そろそろ私達は、この問題と本格的に向き合わなければならないのではないだろうか。
目をそらすばかりではなく、日本にもこのような現実があることを直視しなければならない。
今回の無料クーポン行列現象をきっかけにして、一人でも多くの人が若者の貧困問題に関心を寄せてくれることを願っている。